Webアクセス指標がビジネス成果に与える影響の定量評価

Biデータサイエンスは、統計的アプローチを用いてお客様のビジネス課題の本質的な解決に貢献します。ここでは、あるSaaS企業様のマーケティング施策を題材に、時系列データを用いた高度な統計分析によって、Web施策が顧客生涯価値(LTV)に与える影響を定量的に測定し、意思決定に繋げた事例をご紹介します。

【お客様の課題】

あるSaaS(Software as a Service)企業様は、ウェブサイトへのアクセス数、コンテンツ閲覧時間、会員登録数といった指標を常に追跡し、これらが長期的な顧客生涯価値(LTV)にどれほど貢献しているのかを把握したいと考えていました。しかし、LTVやアクセス指標は日々変動する時系列データであり、単純な相関分析や従来の回帰分析では、偶然の変動(ノイズ)と真の影響を区別することが困難でした。特に、複数のWeb施策がLTVにどのような複合的な影響を及ぼしているのか、客観的で信頼性の高いデータに基づいた分析が経営層から強く求められていました。

【Biデータサイエンスによるデータ分析の実施】

ご提供いただいた、過去数年にわたる顧客生涯価値(LTV)およびWebアクセス指標(月間訪問者数、キャンペーンごとのトラフィックなど)の時系列データを基に、高度な統計モデルを構築しました。通常、時系列データは「単位根」と呼ばれる性質を持つことが多く、このまま重回帰分析を行うと偽の関係性(見せかけの回帰)が検出されるリスクがあります。そこで、まずはデータの性質を厳密に検証し、その結果に基づいて適切な回帰モデルを適用しました。

分析プロセスの詳細

  • データの時系列性の検証
    まず、LTV、月間訪問者数、各キャンペーンのトラフィックといった時系列データが、時間の経過とともに平均や分散が変化する「非定常性」を持つかどうかを、統計的な厳密性が高いADF(拡張ディッキー・フラー)検定を用いて確認しました。これにより、各データ系列が単位根を持つことが明らかになりました。
  • 共和分検定(Cointegration Test)による長期的な関係性の探求
    各データ系列に単位根が存在する場合でも、それらの間に「共和分」と呼ばれる長期的な均衡関係があるかを共和分検定で検証しました。共和分が確認できれば、たとえ個々のデータが非定常であっても、両者間に長期的な安定した関係性が存在すると言えます。この段階で、Webアクセス指標とLTVの間に強固な長期関係が確立していることを証明しました。
  • 重回帰分析の適用とモデルの決定
    共和分検定の結果に基づき、目的変数であるLTVと説明変数であるWebアクセス指標の関係を定量化するため、重回帰分析を適用しました。事前プロットから線形モデルが適切と判断し、さらにデータの非定常性を考慮した上で、差分系列回帰モデルを構築しました。

【統計学的に配慮した点・工夫】

  • 時系列データに対する厳密なアプローチ
    単に重回帰分析を実行するのではなく、時系列データ特有の性質(単位根)を事前に検定し、その性質に応じて適切な回帰モデル(差分系列モデルなど)を選択しました。これにより、統計的な根拠のない「見せかけの回帰」を排除し、分析結果の信頼性を担保しました。
  • モデルの多角的な検証
    構築したモデルが適切であるかを、残差の自己相関検定などで確認しました。また、共変量同士の相関が強すぎないかをVIF(Variance Inflation Factor)などで確認し、多重共線性のリスクを回避しました。複数のモデルを比較することで、結果の頑健性(ロバスト性)を確保しました。
  • 結果の段階的な解釈
    分析結果を単純なP値だけでなく、係数(各指標がLTVに与える影響の大きさ)とともに解釈しました。これにより、「どのWeb施策が長期的なLTVに最も大きな影響を与えるか」といった、より深い示唆を導き出すことが可能になりました。

【分析結果から得られた示唆】

本分析により、各Webアクセス指標がLTVに与える影響が明確に数値化されました。特に、新規顧客獲得を目的とした広告トラフィックよりも、既存顧客のエンゲージメント向上に繋がるコンテンツ閲覧時間が、長期的なLTVに対して統計的に有意な、より大きな影響を与えることが明らかになりました。この結果に基づき、企業様は短期的な新規顧客獲得に偏重していたマーケティング予算を再配分し、既存顧客へのコンテンツマーケティングを強化する戦略へとシフトできました。これにより、限られたリソースの中でLTVを最大化できる明確な根拠を得ることができました。

【補足】

※本事例は実際の分析プロジェクトをベースにしていますが、守秘義務の観点から題材や内容を改変し、顧客およびプロジェクトが特定されないように配慮して掲載しています。

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