従業員ウェルネス施策の効果を定量化する統計的アプローチ

Biデータサイエンスは、統計的アプローチを用いてお客様のビジネス課題の本質的な解決に貢献します。ここでは、ある企業様の従業員向けウェルネスプログラムを題材に、複数の指標の変化を時系列で捉え、統計的に厳密な手法を用いて施策の効果を定量的に測定し、意思決定に繋げた事例をご紹介します。

【お客様の課題】

ある大手企業様は、従業員の生産性とエンゲージメント向上を目指し、新しいウェルネスプログラムを導入しました。このプログラムは、従業員の心身の健康や生活の質(QOL)を改善することを目的としていました。しかし、従来の施策と比較して、この新プログラムが従業員のパフォーマンスや、それが最終的なビジネス成果にどれほど貢献しているのかを客観的に把握できていないことが大きな課題でした。経営層からは、漠然とした「手応え」ではなく、データに基づいた明確な効果検証が強く求められていました。

【Biデータサイエンスによるデータ分析の実施】

ご提供いただいたのは、プログラム参加者と非参加者のそれぞれについて、施策の前後で取得された複数の評価指標(例:業務遂行能力スコア、顧客満足度スコア、健康意識スコア)に関するデータでした。これらのデータは、特定の個人が時間とともにどう変化したかという「反復測定データ」であり、単純な平均値の比較では個々の変化や、データ間の複雑な関連性を見過ごすリスクがありました。そこで、これらの特性を考慮した高度な統計手法であるGEE(Generalized Estimating Equations)モデルと、小サンプルに強いパーミュテーション検定を組み合わせて分析を実施しました。

分析プロセスの詳細

  • 事前分析と手法選定
    はじめに、施策の前後での各指標の変化を評価するために、対応のあるt検定やウィルコクソンの符号順位検定といった一般的な手法を適用しました。しかし、分析対象のサンプルサイズが比較的小さく、データの分布に偏りが見られたため、これらの手法では結論の信頼性が低いと判断しました。
  • パーミュテーション検定による主要因子の検証
    サンプルサイズが小さい場合に特に有効とされるノンパラメトリック検定であるパーミュテーション検定を適用し、プログラムの有無が各評価指標に統計的に有意な差をもたらしたかを検証しました。この手法は、データの分布に依存せず、より頑健な結果を提供します。
  • 多重比較補正による結論の確実化
    複数の指標を同時に分析すると、偶然による有意差が検出される「多重比較」の問題が生じます。この問題に対処するため、Parallel Gatekeeping Procedureという手順に従い、Holm補正によるP値の調整を行いました。これにより、真に有意な指標を確実に見極めることが可能となりました。
  • GEEモデルを用いた多変量解析
    プログラムの有無だけでなく、他の潜在的な影響因子(例:年齢、部署)を調整した上で、各指標の変化をモデル化するためにGEEモデルを構築しました。GEEは、個人ごとの反復測定データを扱うことに長けており、時間経過による相関を考慮した上で、施策の純粋な効果を評価することができます。

【統計学的に配慮した点・工夫】

  • 手法の特性に応じた適切な使い分け
    一般的なt検定とノンパラメトリックなパーミュテーション検定の結果を比較することで、結論の頑健性を確認しました。最終的には、小サンプルに最も適したパーミュテーション検定の結果を重視し、信頼性の高い結論を導き出しました。
  • 多変量解析による交絡因子の排除
    単純な比較では見過ごされがちな、年齢や部署といった他の要因が結果に与える影響をGEEモデルによって統計的に調整しました。これにより、施策そのものがもたらした効果をより正確に評価しました。
  • 多重比較の問題への対処
    複数の指標を同時に評価する際に生じる偽陽性(false positive)のリスクを、多重比較補正によって最小限に抑えました。これにより、分析結果に基づく意思決定の精度を高めました。

【分析結果から得られた示唆】

本分析により、今回のウェルネスプログラムは、他の多くの指標には有意な変化をもたらさなかったものの、従業員の「健康意識スコア」に対してのみ、統計的に有意な向上効果があったことが明らかになりました。この結果は、プログラムの実施が偶然の変動ではなく、確かに従業員の意識にプラスの変化をもたらしたことを証明しています。この結果に基づき、企業様はウェルネスプログラムの目標を再検討し、特定のスコア向上に焦点を当てた施策へとリソースを再配分する明確な根拠を得ることができました。

【補足】

※本事例は実際の分析プロジェクトをベースにしていますが、守秘義務の観点から題材や内容を改変し、顧客およびプロジェクトが特定されないように配慮して掲載しています。

最新のお知らせ